個人大家が法人を立ち上げたものの結局個人大家のままでいる話

これはタイトル通り、我が家が個人で行なっている大家業を法人化しようとして最終的に諦めた記録である。減価償却が進み簿価が下がっている古い建物を相続などで所有している2代目大家にはあり得る話なので注意いただきたい。

法人化を決意

2023年、少し大きな土地の売買をした。
その年末、所得税額なんと2000万円の通知書を見て、ついに覚悟を決めた。マンション経営を法人化して節税すると。

不動産経営 節税 と検索すれば山ほど法人化のメリットを書いた記事がヒットする。1番のメリットは税率の違いだ。個人の所得税額が累進課税なのに対し、法人税は一律23.2%なので所得が増えれば増えるほど法人化すると税金が安く済むのだ。一般的に法人化するための所得のボーダーラインは年収900万円と言われている。ありがたいことにそのラインは毎年超えることができている。やるっきゃない。

我が家も多くの事例通り、建物の所有を法人にし、家賃収入を法人が得て、個人は役員報酬を得る。土地は個人所有のままなので、土地代(時価の3%/年)を法人から個人へ支払う。というスキームで行くことにした。

決定事項
・法人化スキーム(建物を法人、土地は個人)
・建物売却価格は4000万円(時価=簿価)
想定法人設立費用
・資本金100万円
・税理士(司法書士)報酬10万
・法人登記費用30万円

法人設立と費用

ついに法人化を決意した夫は、税理士に相談を持ちかけた。確定申告準備でバタバタしている最中ではあったが、税理士は2つ返事で「いいと思います。もっと早くてもいいと思っていた」と言ってくれた。そして「法人は簡単に作れます」となんとも心強い言葉だ。

早速法人立ち上げに動く。
社名を決めるのは楽しい。紆余曲折を経て第一候補に決まった。
社名が決まれば、社印を作る。代表社員、角印、銀行印の3本セットが14,000円で簡単にネットで作れた。
資本金は夫と妻で50対50の割合で出資をした。代表取締役は物件の所有者である夫で妻も役員に据える。

会社名と役員を決めたらあとは税理士を介して司法書士が動いてくれ本当に簡単に法人ができた。かかった費用は税理士報酬110,000円+登録免許税・印紙税約190,000円=約300,000円ほどだった。
法人の本社所在地登記を自宅でなく物件にしたため、郵便物をリアルタイムで受け取れないというちょっとした面倒ごとはありつつも、うまくことがすすんでいた。

法人が出来上がったタイミングで税理士が不動産取得税(しかも460万円!)の話を出してきた。我々の勉強不足でもあるが、もっと早く聞きたかった。想定外に初期投資がかかるが、節税効果とのバランスで五年ほどでペイできると判断したのでこのまま進める。

12月決算なので1月から法人として運営することが決まった。

決定事項
・法人名、本社所在地、資本金額、出資割合、役員、決算日
払った費用
・法人登記費用 約30万円
・資本金 100万円
追加で必要なことがわかった費用
・不動産取得税460万円 (建物売買後に法人が払う)

所有物件の売買と銀行からの借入審査

次に、所有する物件を個人から法人へ移し、不動産収入を法人化していく。節税対策の場合、土地は個人名義とし、上の建物のみを法人に移すことが多い。移すと言ってもはいどうぞというわけにはいかず個人から法人へ売買することになる。土地は個人から法人に貸すことになり、地代も発生する。
売買代金は、多くの場合では時価を利用する。時価とは帳簿の減価償却残高を使用することができる。今回の場合の建物価格はおよそ4000万円。そして偶然にも大規模修繕時に借りた個人事業の銀行借入残金も4000万円である。

税務上の時価 税務上の建物の時価は「未償却残高」、つまり売却時の帳簿価額を時価とみなすことが出来ます

法人は設立時はお金がないので建物代金を銀行に融資してもらう必要がある。個人としては売買が成立したらその代金で個人事業としての借入を返済する。つまり、建物の売買をすることで所有権を移すだけでなく、借入金も個人から法人へパスすることができるのだ。銀行へは電話ミーティングで法人化の説明をした上で法人口座開設と借入審査を依頼した。

桜の頃になって、銀行の担当者から「法人化によるメリットを示せ」と言われた。(彼は仕事がいつもゆっくり)。今更と思いつつも法人化に伴う節税効果をエクセルにまとめ提出した。その時に「個人事業を会社にするメリット・デメリットが全部わかる本」が大変参考になった。年間100万円程度は効果がある。資料の中身自体は問題なかったようだが、なかなか審査を進めてくれず、並行でお願いしていた法人口座もすぐできますと言っていた割に全然できなかった。

法人口座と法人運営準備

ようやく法人口座ができた。ちなみに銀行にもよるのだろうが、法人口座ではネットバンキングが有料だし、振込手数料が増えたり、キャッシュカードでは現金を引き出すことができなかったりとちょっとデメリットがあった。

物件の売買はまだだが、1月からは法人が不動産運営していることになるので、管理会社、セコム、エレベーター、諸々、契約書の巻き直しと取引口座の変更の手続を進めてもらった。よくある話なのかどこも手続きはスムーズに進んでいく。いろいろな書類に代表取締役と書いていくと実感が湧いてきた。

いざ建物売買へ

ようやく諸々の準備が整い、あとは建物の売買を残すのみとなり、銀行が税理士に売買代金や借入金について最終確認を取るための打ち合わせが実施された。

そしたら急遽税理士に呼び出されたのだ。いつもは出てこない所長まで座っているではないか。これは只事ではない雰囲気を感じる。

所長が口を開き「簿価では建物を売買できない」と言ってきた。なんだって!?今更!?どうして!?今回の対象の物件は簿価に対して固定資産税評価額が約9000万円と倍以上あるのだ。安すぎる時価、おおよそ1/2程度の場合、時価課税が発生する可能性があるそうだ。税務署から指摘を受ける可能性がかなり高いと。

その場合、売買代金が4000万円だとしても9000万円が個人の譲渡所得とされるうえ、法人側も時価より安い価格で購入できたとして受贈益が発生し法人税の課税対象となってしまう。
合わせて1000万円近くの法外な税金を納めることになってしまう(法外なというのはおかしいな、法で決まった税率だ)

土地や建物を売ったときは、実際の売却価額を収入金額として、譲渡所得が計算されるのが原則です。
しかし、土地や建物の売却先が法人であり、しかも売却価額が時価の2分の1を下回っている場合は、売った土地や建物の時価を収入金額として譲渡所得が計算されます。
例えば、同族会社の代表者個人がその会社に時価1億円の土地を4,000万円で売った場合は、売った金額4,000万円ではなく1億円が譲渡所得の収入金額になります。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3217.htm

えーーーーーーーー!?!?いまさら!?
簿価で売買するのは当初から決まっていたはずで、どうして今更そんなこと言ってくるんだ!と思ったし多分言った。担当税理士はただただ申し訳ないと呟くばかり。

簿価と固定資産税評価額の間をとった金額での売買はどうか?と思ったが、それには価格の根拠がないのでリスクが高い(から税理士は関わりたくない)と言われてしまった。

結論

結局、簿価で取引できない以上、建物売買時に莫大な税金が発生してしまうため、たとえ年間100万円節税できたとしても1000万円以上かかる初期投資が大きすぎるということで、今回の法人化の話はここでやめることにした。設立した法人は売上0円として休業届を提出した。

事前の勉強不足といえばそれまでだが、税理士という専門家に最初から絡んでもらっていたので納得がいかないし、色々準備したことが全て無駄になり、とても残念な気持ちである。

名義変更や口座変更を済ませてしまっていたので、取引先各所には再度元に戻してもらうなど手間をかけさせてしまって申し訳なかった。

結局節税もできぬままであり、今年こそ税理士を変えようと強く決意したのであった。

法人立ち上げにかかった(無駄にした)費用

登録税 約190,000円
税理士報酬 約110,000円
印鑑代 14,000円

 

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